リスク管理

ステーブルコインのペッグメカニズム - 法定通貨担保型とアルゴリズム型の構造比較

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ステーブルコインが 1 ドルの値を維持する仕組みは型ごとに大きく異なります。法定通貨担保型 (USDT, USDC) とアルゴリズム型 (旧 UST) の構造的差異と、2022 年の Terra/Luna 崩壊から学ぶ設計上の脆弱性を整理します。

ステーブルコインの種類

ステーブルコインは 1 単位を 1 USD などの法定通貨にペッグした暗号資産で、ペッグ維持の仕組みによって主に 3 種類に分類される。第一に「法定通貨担保型」(USDT, USDC, BUSD など) は発行体が銀行口座や短期国債で 1 USD 相当の準備資産を保有し、発行と償還を行う。第二に「暗号資産担保型」(DAI など) はオンチェーンで担保 (主に ETH) を超過担保 (例: 150%) でロックし、清算機構でペッグを維持する。第三に「アルゴリズム型」(旧 UST など) は法定通貨や暗号資産を担保とせず、独自トークン (LUNA など) との転換アルゴリズムだけでペッグを保とうとする。

法定通貨担保型の運用構造

USDT (Tether) は 2014 年発行開始、USDC は Circle 社が 2018 年発行開始の代表的な法定通貨担保型で、両者で USD 建てステーブルコイン市場の大半を占める。発行体は受領した USD を米短期国債、現金、レポなどに投資して運用益を得る (発行体の主要収益源)。透明性レポートでは、USDC が監査法人による準備資産報告を毎月公表するのに対し、USDT は四半期の限定保証 (assurance) で従来は監査ではなく attestation のみだった。両者とも 2023 年のシリコンバレー銀行 (SVB) 破綻時に、USDC が同行に約 33 億 USD の準備金を預けていたことが判明し、一時的にペッグが 0.88 USD まで割れる事態が発生した。担保があってもカウンターパーティリスクは残る。

アルゴリズム型の脆弱性 - Terra/Luna の事例

2022 年 5 月の Terra (UST) 崩壊は、アルゴリズム型ステーブルコインの構造的脆弱性を示した代表例である。UST は LUNA との 1:1 転換 (1 USD 相当の LUNA を 1 UST と交換可能) でペッグを維持していたが、実需では需要が裏付けされず、Anchor Protocol の 19.5% APY という高利回りで需要を集めていた。2022 年 5 月 7-8 日に大量の UST 売りが発生し、ペッグが 0.99 を割り込むと、裁定で UST を LUNA に転換する人が急増。LUNA の供給量が指数関数的に増えてハイパーインフレを起こし、LUNA 価格が 80 USD から 0.0001 USD 未満まで暴落、UST 価格も 0.10 USD 以下に崩壊した。需要の自己充足的な信認が崩れた瞬間に「死のスパイラル」が発動する設計だった。

ペッグ乖離の評価指標

ステーブルコインのペッグ健全性を評価する指標として、(1) 公開取引所の中央値価格と 1 USD の乖離、(2) Curve など主要 DEX のプール構成比 (ペッグ通貨が偏っていれば需給バランスが崩れている兆候)、(3) チェーン上の発行・償還の流量、(4) 発行体の準備資産構成と監査の頻度、(5) ペッグ復帰までの時間 (de-peg recovery time) などがある。USDC の 2023 年 SVB ショック時のペッグ復帰は約 4 日かかった。一時的な数 % の乖離は通常の市場ストレスでも発生するが、復帰しないまま 24 時間以上推移する場合は構造的問題の兆候として警戒する必要がある。

実務上のリスク管理

暗号資産取引で USDT や USDC を担保や決済通貨として使う場合、ペッグ崩壊リスクをポートフォリオリスクの一部として扱うべきである。第一に、複数のステーブルコインへ分散することで単一発行体の破綻リスクを下げる。第二に、発行体の透明性 (準備資産の構成、監査頻度) を継続的に確認する。第三に、市場ストレス時のペッグ乖離は事前に時間軸を決め (例: 1 USD から 5% 以上乖離が 6 時間以上継続したら現物に避難)、発動条件を機械化する。第四に、アルゴリズム型ステーブルコインを大量に保有しないこと。Terra/Luna 後も類似設計のプロジェクトが繰り返し登場しているが、構造的な脆弱性は本質的に変わっていない。本記事は情報提供を目的としており、特定の運用判断を推奨するものではない。投資判断は各自の責任で行うこと。

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