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結論 - DeFi レンディングは信用リスクを排除するが市場リスクは残る
DeFi レンディングプロトコルは、借り手に超過担保 (担保価値 > 借入額) を要求し、担保価値が閾値を下回ると自動清算することで、貸し手の信用リスクを排除する。しかし、急激な価格下落時に清算が間に合わない (不良債権の発生)、オラクルの価格フィード遅延、スマートコントラクトのバグ、ガバナンス攻撃など、従来の金融にはないリスクが存在する。2022 年の Terra/Luna 崩壊と 3AC (Three Arrows Capital) 破綻では、DeFi レンディングプロトコルで数億ドル規模の不良債権が発生した。
超過担保と Health Factor
Aave v3 を例にとると、借り手は担保を預け入れ、担保価値の一定割合 (LTV: Loan-to-Value) まで借入が可能である。ETH の LTV は約 80% で、1,000 USD 相当の ETH を預けると最大 800 USD まで借りられる。Health Factor (HF) = (担保価値 × 清算閾値) / 借入額 で計算され、HF < 1 になると清算対象になる。ETH の清算閾値が 82.5% の場合、1,000 USD の ETH 担保で 800 USD 借りた状態の HF = (1000 × 0.825) / 800 = 1.03 であり、ETH が約 3% 下落するだけで清算される。実務では LTV の上限まで借りることは極めて危険で、HF を 1.5 以上に維持するのが一般的な安全マージンとされる。
清算メカニズムの詳細
HF < 1 になったポジションは、誰でも清算できる (permissionless liquidation)。清算者は借入の一部 (Aave v3 では最大 50%) を代わりに返済し、対応する担保を清算ボーナス (通常 5-10%) 付きで受け取る。この清算ボーナスが清算者のインセンティブとなり、MEV ボットが常時監視して即座に清算を実行する。清算が正常に機能する前提条件は、(1) オラクルが正確な価格を提供していること、(2) ガス代が清算ボーナスを下回ること、(3) 担保トークンに十分な流動性があること、である。これらの前提が崩れると不良債権が発生する。
2022 年の連鎖清算事例
2022 年 6 月、stETH (Lido のステーキング ETH) が ETH に対して約 5% のディスカウントで取引される事態が発生した。stETH を担保に ETH を借りてレバレッジをかけていたポジションが連鎖的に清算され、stETH の売り圧力がさらにディスカウントを拡大させるスパイラルが起きた。同時期に Three Arrows Capital (3AC) が破綻し、同社が DeFi プロトコルに預けていた大量の担保が清算された。Aave v2 では一部の清算が間に合わず、約 170 万 USD の不良債権が発生した (Aave ガバナンスフォーラムの報告による)。この事例は、DeFi レンディングが「個別ポジションの清算」は自動化できても、「市場全体の流動性枯渇」には脆弱であることを示した。
プロトコル間の伝染リスク
DeFi のコンポーザビリティ (レゴブロックのように組み合わせられる性質) は利便性の源泉だが、同時にリスクの伝染経路にもなる。例えば、(1) Aave で借りた USDC を Curve のプールに預けて LP トークンを取得、(2) その LP トークンを別のプロトコルで担保にしてさらに借入、という多段レバレッジが可能である。この構造では、Curve プールの de-peg や Aave の清算が連鎖的に波及する。2022 年 11 月の FTX 破綻時には、FTT トークンを担保にしたポジションの清算が複数プロトコルに波及し、DeFi 全体の TVL が約 40% 減少した。
リスク評価のフレームワーク
DeFi レンディングのリスクを評価する際の主要な観点として、(1) 担保資産の流動性 (清算時に市場で売却可能か)、(2) オラクルの信頼性 (Chainlink 等の分散型オラクルか、単一ソースか)、(3) プロトコルの監査状況 (複数の監査法人による監査済みか)、(4) ガバナンスの集中度 (マルチシグの署名者数、タイムロックの有無)、(5) 保険ファンドの規模 (不良債権発生時の補填能力)、(6) 過去のインシデント履歴と対応速度、がある。<a href="https://www.amazon.co.jp/s?k=%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E7%AE%A1%E7%90%86&tag=" target="_blank" rel="nofollow noopener noreferrer" class="amazon-inline-link">リスク管理の関連書籍</a>で金融リスクの基礎理論を学ぶことも有益である。
注意事項
DeFi レンディングは従来の銀行預金とは根本的に異なり、預金保険のような公的保護は存在しない。スマートコントラクトのバグ、ガバナンス攻撃、オラクル操作、流動性枯渇など、元本を全額喪失するリスクがある。高い利回り (APY) はこれらのリスクに対するプレミアムであり、リスクフリーリターンではない。本記事は DeFi レンディングの技術的仕組みとリスク構造を解説する情報提供を目的としており、特定のプロトコルの利用や投資を推奨するものではない。DeFi プロトコルの利用は各自の責任で行うこと。